【読書記録】原田マハ「星がひとつほしいとの祈り」

今年読んだ本で何がよかった?と女性に聞かれたら迷わずこの本を答えます。

原田マハさんの短編小説集です。一つ目の作品を読むと、そのあとずっと何かこうすーっとした空気と余韻に浸りながらすらすらと読み進められます。心の奥に何かが浸透していく。涙が止まらない作品もある。泣いてる感覚がないのに、これでもかというぐらい涙が出てくる。不思議な感覚のまますーっと読み終わる。一つ目の作品で「うーん、なんか違うかも?」と終わらせないでほしい。すべて読んでほしい。あーなんて人間って愛らしいんだと私は感じた。

この本、絶対好きな人にしか貸したくない。私のこれからに必要な人にしか貸したくない。そんな大切な本。

【読書記録】原田マハ「キネマの神様」

 キネマとシネマの違いもわからない私*1ですが、原田マハと映画は大好き。おまけに主人公が独身女性とくれば心惹かれるに違いないでしょうということで日帰り旅行のおともとして購入。新幹線の中でじっくり読みました。ちなみにこれと同時に、ほぼ日手帳ガイドブックも購入しました。来年もカバーは必要ないかな。他人の手書き文字を見ることが好きなので、もっとそこにページを割いてほしい。お願いします糸井さん。

キネマの神様 (文春文庫)

キネマの神様 (文春文庫)

 

 私は原田マハさんの作品を読むと必ず、「ああ人間ってなんて愛らしいんだ」と感じます。私は多くの人々を愛せるような奴ではなく、どちらかというと物事を穿って拗ねてひねくれて見ているため人もなかなか愛せないような奴(そういえばゲッターズ飯田さんのあだ名占いの結果は、ひねくれた天才小学生だった。褒めてるのか褒めてないのか。でもちょっと嬉しい)なんですが、それでもそう思わせてしまうぐらいの力が原田マハにはあるのです。これってすごいことなんです。私が人間を愛らしいなんて、普段の私をよく知る人が聞いたらビックリするでしょう。受付の仕事をしていますが、助けてあげたくなるかわいいおじいちゃんおばあちゃんと、そうではないくそじじいくそばばあに対する対応の差といったらもう。人に愛される力って生きていく上で非常に大事な能力だと思う。自分自身、後者にならないように生きていかねばなりません。

 さ、そんなどうでもいいことは置いといて。

 主人公・歩はアラフォーで映画好きの独身女性。この歩の父親がそりゃあもうダメでダメでダメなハゲ頭親父。ギャンブル、そして借金の繰り返しという典型的なダメ親父。しかしこの親父、心から映画を愛している。そしてその映画の素晴らしさをおもしろおかしな癖になる文章で人に伝えることができる。

 映画を愛する親子が映画を通して新たなスタートを踏み出していくお話。

 

 私、最初に映画が大好きと言いましたが、それほど見ているわけではありません。気になったものだけを見るタイプ。ですので、この作品に出てくる作品も中身どころかタイトルさえ聞いたことがない作品だらけでした。淀川さん*2にもし会ったら、会って間もなく「さよなら、さよなら、さよなら」って言われるレベル。ああ映画もっと見ておけばよかった!見ていたらこの作品をもっともっと楽しめたのに!!あああああああああ!!!!!と叫びたくなるほど。勉強ができないならせめて映画を見ていればよかったのではないか、そうしたら充実した人生を、素敵な大人になれていたのではないかと幻想を抱いてしまう。チャップリンの格好をして「少年、大志を抱く前に映画を見よ!」ってスクリーン指したい感じ。

 片桐はいりさんの解説がこれまたよかったんです。はいりさんってはいりさんが出てくるだけでその作品がワンランク上になるぐらい、素敵な役者さんじゃないですか。そんなはいりさん、文章も上手い!読者はこういう気持ちでこの解説に辿り着いているんだろうなーじゃあこういう風に書けば余韻を壊さないかなーという洞察力がすごい。作品から解説までをすべて読んでも、それとそれの間に邪魔がないというか、流れがとてもキレイなんです。それを無意識にやっていると思います。はいりさんのエッセイを読みたくなりました。

 はいりさんの解説に出てきた

正しい事実より、楽しい作り話

 という言葉がとても印象に残りました。そう思うこと、たまにありますよね。事実はいつだって正義というわけではない。虚構がいつも悪ではない。そんな感じ。

*1:調べてみてわかったけれど、「ふーん」って感じだった。

*2:故・淀川長治さん。この作品にも登場する。ちょうじさんだと思っていた。ながはるさんだった。

【読書記録】吉田修一「怒り(上・下)」

 今年は本をたくさん読んでいます。先輩から「メンタルが弱まってないときに読んでね」なんて話しながらお借りしました。

怒り(上) (中公文庫)

怒り(上) (中公文庫)

怒り(下) (中公文庫)

怒り(下) (中公文庫)

 映画にもなりましたが、そちらは見てません。どうでもいいと思いますが、私は渡辺謙ラストサムライしてたときから、うさん臭いというか信用できない感じが苦手で好きではありません。読み終わったあと、森山未來の演技が気になってしょうがない。森山未來だけ見たい。怖い。ぞっとする。宮崎あおいが役作りのために8kgも増量したなんてニュースになっていましたが、原作を読むとまったく宮崎あおいではない感じ。もっともっともーーーーーーーっとぽちゃぽちゃしているのが愛子なのになぁ。

 これだけ登場人物が出てくるにも関わらず、誰にもさほど共感できないまま終わった気がする。そんな話も珍しく、新鮮だった。この物語の唯一の救いは優馬が直人を自分の母親と同じお墓に入れたことかなーなんて思う。でもそれは読者の私が感じる救いであって、優馬が救われることはないんだろうなーとも思う。お墓に直人の名前と自分の名前が並んで刻まれたときに初めて優馬は救われるのかなぁ。となると、やはり優馬は生きている間は救われないのだろうか。

 洋平と愛子の決断、泉の告白はどうか希望であってほしいと思った。何が怒りになるのか、そしてその怒りを何につなげるのか。人を心から信じることの難しさ、愛する人を守るために愛する人を傷つけなくてはいけない現実。報われてほしいとか、救われてほしいとか、そんな安易な言葉を願えない。怒りは続く、それだけは本当のこと。

【LIVE】星野源LIVE TOUR 2017 “Continues”

楽しかったー!
ありがとう星野源!ありがとうニセ明!

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 久々の横浜アリーナでした!いつ以来だろう。音楽番組「バズリズム」のライブにゲスト出演したでんぱ組.incを見に行って以来かも知れない。ちなみにこのライブから帰ってきたあともがちゃんの脱退を知りました。悲しかった。でんぱ組は複雑なパート分けが特徴だと思っていて、それが辞めたいって思ったときのひとつのストッパーになってくれているんじゃないかなぁなんて思っていましたが。残念。
 横浜アリーナは源さん、日産スタジアムではミスチルのライブがあり、新横浜駅星野源ファンとミスチルファンでえらいこっちゃになってました。お手洗いも混んでいて、これはライブに関係のない方々はさぞ迷惑だったに違いない。

 こんなにも音楽を、音を、楽器を愛する人のライブに行ったのは初めてだった。これだけ売れたのに初めて音楽を好きになったときの喜びを忘れてない!音楽も楽器も好きで好きでしょうがないというのがびしびし伝わってくる。そしてその喜びはこれからも続くぞ!っていうのを強く感じさせてくれて、星野源って本当にすごい。こりゃ売れて当然だ。

 はぁー楽しかった。源さんのことも音楽もますます好きになるライブだった。

【読書記録】恩田陸「蜜蜂と遠雷」

  思いました。「これ、読んでみてー」と渡されたときに思いました。

いや、これ私無理です。

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

 なんだこの分厚さ。めくったら、これまたビックリ。二段になってるでやんの(やんの言うな)ただでさえ分厚いのに、1ページ二段になってやるでやんの。しかも私ずっと「蜜蜂」じゃなくて「蜂蜜」と思ってたよ。ビーじゃなくてハニー。飛び乗ろうよ HONEY BEAT!(歳とると思ったことをそのまま口にしたり書いたりしちゃいますよね)

 

 まぁ結論からいくと、意外とあっさり読めてしまった。


 ピアノコンクールがそのまま小説になっている。本当にそのまま。小説なのにピアノコンクールの観客席にいる感じで、一人の演奏が終わると次の人の演奏が聞きたくなって、全員の演奏が終わると結果が知りたくなって。だからある程度のところまでいくと、よほどピアノや音楽にまったく興味がない限りすらすらいくと思うんですよ(ただそこにいくまでが大変だった)恩田陸すごい。恩田陸すごい。なんだよ面白くてスラスラいくわ。どんどん読めるわ。なんだこれは、むしろなんだか憎くなってきたわ恩田陸、と思いながら読んでいました。普通の小説とはまた違う感じ。恩田陸さんの作品を読んだのはこれが初めてなんですけど、なんとなーくきっと今までの恩田作品とは別物なのではないかと。だから過去の作品には手を伸ばさないでいる。

 読み終わったあとも、ピアノコンクールが終わったホールで一人余韻に浸ってる感じで、どうしてもピアノが弾きたくなって、ミスチルの「Tomorrow never knows」 *1のイントロだけ深夜に小さい音で弾きました。

 

 ピアノコンクールということで調律師が出てくるんですが、この物語が何度も頭をよぎりました。 美しく、品があり、背筋を伸ばして読みたくなる。でも結果的にとても癒しをもらえるお話。

羊と鋼の森

羊と鋼の森

 

どちらもピアノを題材にした話になりますが、私は断然こちらの「羊と鋼の森」の方が好み。「蜜蜂と遠雷」は天才ばかり出てきてそこまで感情移入ができず、舞台もコンクールというだけあって、読んでいて息が詰まる感じがあったからかも知れない。でも、こういう小説の書き方があったのかーと素直に感心したのは確か。


 まぁ、しばらくはここまで長いの読みたくないな。

*1:櫻井さんが崖で歌ってる名曲

【読書記録】村山早紀「桜風堂ものがたり」

 本屋大賞にノミネートされていたのでタイトルは知っており、表紙の絵も素敵だったのでずっと気になっていたのですが買うタイミングを逃していました。そしたらなんとサクラ書店で直筆サイン入り本を見つけてビックリ!迷わず購入した本です。

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

 

  万引き事件がきっかけで長年勤めた書店を辞めることになった主人公・一整を中心に、本を、そしてきっとそれ以上に人を愛する書店員がたくさん出てくるお話。この「万引き事件がきっかけで~~」云々を読んだだけで、メンタルが弱まっている人は少し手に取りにくいのではないか?なんて思ってしまうのですが(実際私も心にズシンときそうで、躊躇しました)そんな不安は捨てて、本が好きな人にはぜひ読んでほしい一冊です。

 

 生きていると悲しい経験とか辛い経験が多かれ少なかれありますが、忘れているつもりでいても頭の片隅にはそれが消えずに残っているんだなーとしみじみ。なんかこう、嫌な思い出のはずなのにこの物語を読んでいるとそれが優しくよみがえってくるんですよ。嫌な思い出が優しく、なんて不思議な話なんですけど。あの日、あの時のもうダメだと思っていた私が救われたような、そんな不思議な気持ちになりました。

 そう、この物語、全体的に不思議なんです。現実の世界の話なのに、なんだかふわっとしてるというかファンタジーのようにも思える。その象徴が一整と一緒に旅をすることになるオウムなんですけど、それだけじゃなく、物語全体がふわっとしている。いい意味で、ですよ。私は兄弟から幾度となく「なんだろうなーなんか浮いてるよねー」と言われてますけど、それと真逆のやつですからね。このふわっと感はなんだろうと読んでいる間も読み終わったも数日考えていたんですが、著者の村山早紀さんを調べたときに、児童文学作家という肩書きを見つけて「あーーーなるほど」と納得。言葉では上手く表現できないけれど、それを知ったときにスッキリしたんです。現実の世界にちょうどいい具合の夢が加えられている。その絶妙さが児童文学をやってきた方ならではなんだろうなーと思いました。

 

 「いっせい」の漢字変換といえば「一生」でしたが、これからは「一整」とも変換されるな。羽海野チカ作「3月のライオン」の主人公である桐山零くんといい友達になれると思う。なってほしい。

【映画】「3月のライオン(後編)」:君は将棋が好きか?

映画「3月のライオン(後編)」を見に行ってきました。
www.3lion-movie.com

 見てから時間が経ってしまったので、記憶を頼りに書きます。前編は想像していたよりとてもよかったんです。零くんが一人で酔っ払って倒れているところで、あれぇ~なんかスミスたちが悪みたいになっちゃってるじゃないの~でもきっとここに至るまでになんやかんやがあったんだよね。スミスたちは悪くないよね、って補正したりしちゃったりして。神木くんたちの好演っぷりに楽しめました。

 後編もよかったんです。香子にあのとき零に勝てる術はあったと教える親子のシーンとか、零と後藤さんの将棋対決とか本当によかった。前編のヒロインは二海堂くんだったように思いましたが、後編はちゃんとひなちゃんがヒロインだった。ちなみに林田先生もヒロインだったように思う。宗谷名人がマドンナ的な(笑)

  ただ、あるところにきて思いました。

 何故こうなった。

  三姉妹のお父さんとの話なんですけど、三姉妹父の悪事を調べた零くん(原作と違って林田先生と野口先輩が頑張って調べ抜いたという描写はなし)が、三姉妹父に「最低」とか「屑」とかありったけの悪口を言うんですけど、そこで三姉妹が「いくら酷くても私たちのお父さんなんだから!」となって、零くんとの距離をとってしまうっていうあたりがね・・・・・・あれ・・・・・・みたいな。なんでなんで、なんでこうなる。原作こんなだっけ?おまけにあかりさんは絶対あそこで「帰ってくれるかな」なんて言わない。もし言ったとしても、零の孤独や悲しみがわかる人だからあとで絶対フォローを入れているはず。どうしてどうしてなにこれなにこれ、となってしまって違和感がすごくありました。

  ただ、その違和感もはねのけるぐらい、キャストのみなさんの演技が本当によかったんです。私が「3月のライオン」で一番好きな人物である林田先生も本当によくて、前編のとき以上に「あれ、スクリーンに林田先生がいる。林田先生が動いてる」って思いました。一生さんは大好きな役者さんですが、一生さんだ!ではなく「林田先生がいる!」とずっと感動していました。紛れもない林田先生。零が心を開く数少ない人の一人が、そこにはいました。

『結果は大事だけどな、人に伝わるのは結果だけじゃない』

 この林田先生の言葉にどれだけの人が救われただろうか。私もその一人です。この言葉と、幼き零ちゃんの将棋のテキストをひなちゃんが拾ってあげる描写で私はもう涙が止まりませんでした。ひなちゃん役の清原果耶ちゃん、本当にいい瞳をしている。ひなちゃん役が清原さんで本当によかったです。

 

 零くんと三姉妹が距離を置くという描写の違和感は、藤原さくらさんの「春の歌」の大きな大きな違和感が横取りしていった感がありました。なんだよこれ、何故にここまでアレンジした??ここまでアレンジするなら春の歌の意味あったか??藤原さくらちゃんの新曲でよかったんじゃない??と。違和感がありすぎて全然感動できなかった。でもおかげで映画の内容の違和感を忘れることができたというミラクル。帰り道にスピッツの「春の歌」を聴いてちゃらになったので結果オーライでした。マサムネさんは尊い

  とにもかくにも漫画の実写としては、よくできていたのではないかと思います。だって私、怒ってないですもん(笑)真面目なことを言うと、本や漫画や映画は現在の自分だけでなく、過去のあの日あの時の自分を救ってくれるような瞬間に出会うということを教えてくれる作品でした。